小さな子が、父親あるいは母親に手をつないでもらって、歩いている。親の手が大きすぎるので、子どもは、親の指をつかんでいるだけ、親は、つかませているだけ。ほほえましい絵である。私も、子どもの頃に父に手をつないでもらって歩いた記憶がある。その際、父が握り返さないことが不満で、自分の左手で、父の指をつかみ、自分の右手を握らせた。
先日、ある集会で、自分の子どもの頃を回想する機会があり、それを思い出した。と同時に、3年前に亡くなった父を思い出し、胸が詰まった。
食道癌で入院していた父は、見舞いに行った私が、帰るとき、握手してきた。その際、握手した親指を軽く動かし、私の手をなでた。
父とは、別に悪い関係ではなかったが、心開くような話をしたり、感謝や詫びのことばを言い合ったりするようなことは、なかったことを後悔している。
思い出すと、胸がつまって、話ができないので、このことで、誰も私に話しかけないでね。
久保秀美